2006年06月02日

〈天録〉 社会に広めたい「子育て四訓」

本紙・平成十三年元旦号で最初に提唱した「子育て四訓」が好評で、いろんなところで引用されたり、編集部に問い合わせをいただいたりする。
そこで、その言葉に込められた思いの一端を改めて解説したい。
 
「子育て四訓」は、山口県下に住む教育者のA氏が、長年の教育経験を踏まえてまとめたもの。
きっかけは、いじめが社会問題となる前の昭和六十年頃、荒れる十代≠ニ言われた子供達の校内暴力や破壊行為に手を焼く時代があった。
当時、山口県では、全国に先駆けて教育相談専門教員を配置し、A氏はそのリーダー的な役割を担い、いろんな生徒の家庭環境や親子関係をかいま見て、子供達の問題行動が、人間愛、親子愛の欠落に起因している部分が多いと痛感させられた。

問題行動の背景に愛情不足や親子の分離不安があり、いわゆる、親や社会に対する甘え≠ェある。
しかし、そうした子供達に「甘えるな」と言ってみても、そうせざるを得ない過程を経てきている。
親としても教師としても社会としても、そこに目を向けることが必要であり、「形態は違っても親子の関係を見直す必要がある」との思いが募っていった。
そんな時、獣医師の中川志郎氏の著書にあった「サルの子育て」の生態がヒントになり、「子育て四訓」にまとめた。

以下、簡単にそれぞれの言葉を解説しよう。

■「乳児はしっかり肌を離すな」

胎児期には、文字通り母子はヘソの緒で繋がり、羊水の中で守られている。
それが、出生によって赤ちゃんは外界にさらされ、不安になる。
その心の安定を保つためにも、しっかりと肌と肌を触れ合わせることが大切だ。
サルの子育てで言えば「抱いてちょうだい」の時期である。

とりわけ、人間は、他のほ乳類と違って、生まれて一年間はほとんど受け身の状態である。
二足歩行ができるまでは、母親の胸は子宮の延長≠ナあり、しっかりと抱かれることによって、赤ちゃんは「守られている」「かわいがられている」と無意識のうちに感じ信頼し安心するのである。

それが、愛情や信頼、情緒的安定、他人を思いやる心など、人間形成の基盤になる。
であればこそ、乳児期の親子の接触は、社会的にも支援・応援していく必要がある。
とりわけ、母乳育児の奨励支援は、親子のよりよき関係づくりには極めて重要と言える。

■「幼児は肌を離せ手を離すな」

幼児は乳離れをするが、一気に離すのではなく、常に親がそばにいることで、「心配しなくても良いよ」という安心感を与えることが大切だ。
サルの子育てで言えば「下ろしてちょうだい」の時期だ。
ちょっと周囲への関心やいろんなものに目が向いていき、自立させるための第一段階だ。
自立に目覚める幼児期は、完全な保護から社会に向いて一歩踏み出す時期といえる。

最近では、「子供の自立」と称して、実際には、親が子育てを放棄する口実に使われていることが多い。
子供を施設に預けっぱなしにするなど、自分で産んだ子供との絆を切りたがる傾向さえ見受けられる。
あるテレビのインタビューで、「子供へ愛着がわかない内に預けた方が良い」と零歳児保育に預ける理由を語っていた母親がいたが何をか言わんやである。

昨今、子育ては苦痛なもの、苦しみを伴うものという感覚を植え付けすぎ、安易に生きることが奨励されすぎてはいないだろうか。
本当の生きる喜びとは、親子の絆を大切にし、温かい家庭をつくり、その延長として健全な社会を形成していく、そうした家庭の社会的な意義についても力説すべきである。

■「少年は手を離せ目を離すな」

少年は、友達との付き合いによって社会性が育つ時なので、ここではしっかり手を離して、活動範囲を広げてやらないといけない。
ただし、いろんな危険があるので、目を離してはいけない。
猿の子育てでいえば「一人にしてちょうだい」という時期であり、親猿はこの時期、遠くから小猿を見守り、子供が何かで声を上げるとすっ飛んでいく。
人間も、学ぶところが多いのではないだろうか。

この時期、子供が親に反抗したり、非行や問題行動に走ったり、いろんなことで苦しい思いをするかもしれない。
しかし、それは成長の過程である。
親として逃げずに、子供に向き合って、共に成長することを心掛けるべきだ。
子供の荒れの背景には、親や友人に「こちらを向いて欲しい」というメッセージであることが多いのである。

■「青年は目を離せ心を離すな」

青年期にまでなると、完全に自立していくために、自分なりの生き甲斐、進路を歩んでいく時であるが、気持ちの上では、心を離してはいけないということである。
いずれにしても、子育ての最終的な責任は親にあるという基本を忘れてはならないのである。

  ◇  ◇  ◇

「大人も子供も同等だ」「子供の人権を尊重すべき」といった主張があるが、本来、大人と子供は異質なものである。
子供が自覚しないままとっている行動の意味を、親が理解して対処しなければならないという場面は、子育て中には多々あるものである。
それを「平等だ」と突き放してしまったところに、子供たちが荒れたり切れたりする要因があるように思えてならない。

もちろん子育ては「四訓」の言葉だけで、言い尽くせるものではない。
しかし、自分の子育てを振り返る、あるいは自信を持つヒントにしてほしい。

子育て四訓
一、乳児はしっかり肌を離すな
一、幼児は肌を離せ手を離すな
一、少年は手を離せ目を離すな
一、青年は目を離せ心を離すな

 
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日本時事評論 第1609号(H18.6.2)より転載しました

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posted by 草莽塾有志 at 15:01| 山口 ☀| Comment(1) | TrackBack(2) | 2006記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
調布市議会議員です 
今定例議会において『子育て四訓』を引用させて頂きました。大変有難うございました。わが会派の同僚議員も感銘をしている所であります。これからも貴社の活躍をお祈りいたします。
Posted by 小林みつお at 2006年09月08日 12:50
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「子育て四訓」(日本時事評論より)
Excerpt: ●「子育て四訓」というものがあるようです。 これは分かりやすいな、と思ったので、ここでも紹介! 【子育て四訓】 乳児は しっかり肌を離すな 幼児は 肌を離せ 手を離すな 少年は ..
Weblog: lab room(ラブルーム)
Tracked: 2006-09-03 05:04

子育て四訓
Excerpt: 以前、どっかで見かけたのをずっとメモっておいたのだけど、 改めて調べたら『日本時事評論』http://jijihyoron.seesaa.net/article/22839398.html という..
Weblog: チロブログ
Tracked: 2007-05-17 11:46
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